朝。

目が覚めると窓からまぶしいほどの光が差していた。


となりのベッドで寝ていたはずのリリーはもうすでに起きて身支度をすませてる。
鏡台で髪の毛をといていた彼女は鏡ごしに私が起きたのを見つけると、うれしそうにぱっとこちらへ振り向いた。
「おはよう、!」

「おはよう」
ごしごしと目をこすり、足をベッドから床にもってくる。
髪をとくのをやめたリリーは小走りでこっちへやってきて、まだ寝ぼけまなこの私の手をつかむとぎゅうぎゅう引っ張ってきた。

、早く朝ごはん食べに行きましょ、ほら早く」
「わ、待ってリリー」
力強く引っ張られ、そのままベッドからふわりと離れた。
急いで制服に着替える私のとなりで、リリーはガラス越しに外を見てる。
「ほら見て、空が綺麗よ。今日は最高にいいお天気ね!」

「わあ、本当だ」
私も手をとめて窓の外を覗いてみた。なんだかわくわくした気持ちになって、自然と口元が緩む。


「今日はいいことありそうね、…って、遅いー!いいから、それは私がやるわ」
そう言って窓から離れて、リリーは私のネクタイをつかむなり手際よく締めた。

「ほらできた、じゃあ朝食!」
「あ、まだローブが」


さっさと部屋の扉を開けて出て行ってしまったリリーを見て、慌てて椅子にかけてあったローブを掴む。

部屋を出る一歩前、ちょっとだけ部屋の鏡台を覗いてみた。髪の毛がまだすこしだけ乱れてる。
手でささっと整えてから、なんだか朝から嬉しそうな自分を見てまた笑みがこぼれた。


今日はいいことがありますように。
小声で呟いてから、はそっと部屋の扉を閉めた。



* * *




大広間はいつもよりずっと賑やかだった。それもそのはず、今日はクイディッチの試合。
みんな試合についてあれこれ興奮気味に話し合い、大広間中がものすごい活気に満ちている。


はリリーのあとについて席に座ると、周りの熱気に感心しながらすぐさまカボチャジュースに手を伸ばした。
「あ、、ストーップ!ちょっとだけ待って!」
「へ?」


リリーの待ったで手を止めたままぽかんとしていると、彼女は自分のローブの中からなにやら取り出した。

「…はい!16歳おめでとう、!」
「…えっ、」


それが自分への誕生日プレゼントだと気づくなり、は目を丸くした。
リリーが差し出す小さな包みは、彼女の手の上で可愛らしくまとまっている。は嬉しさにわぁ、と声をあげた。

ねえねえ開けてみて!と彼女が急かすので、はその小さなプレゼントを受け取った。
ゆっくり開けてみると、包んであったのは青いリボンだった。

手に持つとさらっとする。つまんでちょっと揺らしてみたら、光の加減で明るい色にも深い色にも輝いた。目を見張るような、綺麗なリボン。


「ね、きれいでしょう!」
「うん、本当…」
きれい、と心のなかで呟いて、うっとりしたように手の中のそれを眺める。


それからリリーが満足げに目を細めたら、それを丁寧に私の髪の毛に結んでくれた。
頭を動かすと、ひらひらと髪の上で踊るのがわかる。
何度かその感触を楽しんだら、気持ちがだんだんと弾んできた。


「似合うわ、
可愛い可愛い、とうなずくリリーも私以上に誇らしげ。
「本当にありがとう。リリー」


笑顔を通わせて、ふたりはまた朝食に手をつけはじめた。
大広間にはさっきよりも多くの人が席に着いてる。


グリフィンドールのテーブルでも、また一つのグループが席に着いた。は朝食を食べながらチラリと見ると、さっそくクイディッチのユニフォームを着たジェームズのとなりに座るリーマスが見えた。

どきりと心臓が打つのと同時に、リーマスもこちらへ気づいて微笑んできた。
スプーンをまだ少しくわえたまま、反射的に笑い返す。見なくても自分の顔が赤くなってるのがわかった。



それからリリーとふたりで席を立って、試合の前にいったん寮へ。
大広間を出る途中、寮生の女の子が振り返ってきた。
、それ似合うわね!」


「ありがとう」
お礼を言うと、また心がふわりと躍った。


大広間の大きな扉をくぐり、また前を向いて歩き出す。
なんだか今日はすてきな日になる気がした。






(2010.08.01)

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