リーマスなんて、もう知らない!




ベッドに潜ってから、ついさっき自分が叫んでいた言葉がぐるぐると頭の中を行ったり来たりしていた。

いままであんな大げんかなんか、したことなかったのに。
ほんの、ちょっとしたことから口論になった。
ふたりともなんだか今日は調子がおかしかったんだ、どうしてかな、

布団をかぶったまま、ちらりと窓の外を眺めた。星がきらきらしてすごく綺麗だった。
うっと涙がこぼれる。急に寂しさがどっと溢れてきた。



卒業。

そう、明日は卒業なんだ。



じわじわと睫毛にも涙が濡れる。ああどうして今日に限ってあんなこと言っちゃったんだろう…
明日、どんな顔をして会えばいいのかな。

しばらくしたら泣き疲れて眠ってしまった。
その晩に見た夢は、すごく不思議なものだった。







どこまでもどこまでも続く、広いキャベツ畑。
その畑のまんなかに小さな家を構えて、ふたりの夫婦が暮らしていた。私とリーマスだ。

どうやらお食事時みたいだった。
家のすぐ外の食卓に、私がボウルいっぱいにキャベツをのせて出す。
「さあ、リーマス、ご飯よ」

「わあ、今日も豪勢だね」
こんもりのったキャベツを見たリーマスがうれしそうにフォークを握る。そして、そのままむしゃむしゃと頬張りだした。うん、おいしいよ

リーマスの反応を見てから私もそれを口にいっぱい含んだ。ああほんとうだ、すごくおいしい。


そのままふたりでキャベツを食べながら、時たま顔を見合わせ、にっこり幸せそうに笑った。

夢の中で私たちはすごく満たされていて幸せだった。キャベツだけの食事で。
その後の人生を、ずっとキャベツで過ごさなくてはならなくても、幸せいっぱいだった。







翌朝起きたら、なんだか心がすっきりしてた。ああ不思議な夢。
でも昨日の心のもやもやが、びっくりするくらいに吹き飛んでた。そしたら急に彼が恋しくなった。

いますぐリーマスに会いたい!

すぐに準備をして部屋を出たら、昨日の晩から心配そうにしていたリリーもあとを追うようにして談話室に降りてきた。
私は彼を見つけたらすぐに走っていった。
「リーマス、」

私が近づくとと彼も気づいて振り返ってくれた。正面に立つなり、彼は申し訳なさそうに頭を掻いた。
「きのうは、ごめん」

私はううん、と首を振るとリーマスにぎゅっと抱きついた。
「あたしもごめんね、あんなこと言って…」
リーマスはちょっと驚いてたけど、優しそうに微笑むと私をそっと抱き返してくれた。
「ううん、僕たち…昨日はなんか変だったよね」
私は急に昨日の夢が思い出されてリーマスを見上げた。広い広い、キャベツ畑が脳裏によみがえる。




「あのねリーマス、私きのう夢見たの。キャベツ畑の真ん中で、毎日、リーマスとふたりっきりでキャベツを食べる夢」
言った瞬間、傍で誰かがブッと噴き出すのが聞こえる。ジェームズだ。

「…あのね、それで私すっごく幸せだったの、毎日3食キャベツばっかり…、だけど、リーマスと一緒なら、すべてがきらきらして綺麗にみえた」
一生懸命伝えようと必死に説明した。リーマスは私の言葉にうんうんと優しく頷いてくれた。


「私、一生キャベツばっかりでも……たとえ一生ビーフストロガノフが食べれなくなったとしても、私、リーマスがずっと一緒にいてくれるなら、すっごく幸せ」


言ったらリーマスはうん、と最後に優しく微笑んでくれた。
伝わった…、よかった!




「実は僕も変な夢を見たんだ」


僕たちふたりで雲の上に暮らして、ご飯には雲ばっかり食べてた。
いくら食べてもおなかいっぱいにならないのに、(おまけにそれが甘くもなんともない!)、僕、と一緒にいるだけで幸せな気持ちだったんだ、って。


「僕も、一生チョコレートが食べれなくったって平気さ…がずっと一緒にいてくれるなら」
私はその言葉にちょっと泣きそうになった。


リーマスは抱きしめていた手で私の手をぎゅっと握りしめた。ちょっとどきっとする。
いままでになくリーマスが真剣な表情をしてたから。


、卒業したら僕と結婚してくれないかな」




そしたら談話室が急にしんと静まりかえった。私もびっくりして声が出ない。

すっごくすっごく嬉しくて、言葉より先に涙がでてくる。
目の前にいる彼が愛しくて。次々とこみ上げる涙を押さえることができない。




「…うれしい、」


やっと口にした言葉はひとことだけ。

けど、リーマスはありがとうってぎゅっと抱きしめてくれた。談話室中から拍手がわき起こる。
リリーが泣きながら私たちに駆け寄って抱きしめてきた。ジェームズもシリウスも笑いながら肩を叩いてくる。

ほんとうにほんとうに幸せな、卒業式の朝だった。




それから数年後、私たちは素敵な結婚式を挙げて、一緒に暮らしはじめた。

住まいはキャベツ畑のど真ん中でも、雲の上でもない。ご飯もキャベツはたまに出るけど毎日じゃないし、ビーフストロガノフもチョコレートも普通に食べる。

つまり、わたしたちは毎日、極上の幸せを味わいながら生きているということ。




――と、ふたりでキャベツを食べながら、時たま顔を見合わせ、にっこり幸せそうに笑った。





(2010.1.30)
とっても謎な初短編でした。
読んだ方の心がほんわか、あったまってくれればうれしいです。 inserted by FC2 system