やわらかい音を立てて流れる水に、ちょんとつま先をつけて足をぶらぶらさせた。
ぎらつくというには穏やかな日差しのなか、私とリーマス、そっくりなポーズで橋の上に座ってる。
夏休み初日。ジェームズ企画:第三回 “リーマスのお家deお泊り会” に集まるはずのメンバーは、私が到着したころにはまだ誰ひとりとして来ていないみたいだった。
いつものようにリーマスパパとママに挨拶して、まだ静かなリビングにリーマスと荷物を置きにいく。
それから私たちは家のすぐまえの小さな橋に腰かけて、みんなが来るまでのあいだアイスクリーム片手にのんびり時間を過ごした。
スカートにしずくがこぼれないか気にしながら、かぷりと一口。となりのリーマスはズボンの裾をまくって、私にはちょっと届かない小川の中で足をバシャバシャした。
くやしい思いで彼を見やったら、ちょっとだけ睨んでるような目つきになった。目にさしこむ光が眩しい。
それから私は彼の手元を見て目をぱちくりさせる。うわぁリーマス、もうそんなに食べたんだ。
「ジェームズたち遅いね」
ぼんやり小川を眺めていたリーマスが言った。ざく!っとコーンの崩れる音がする。
「うん、ジェームズ主催なのにね」
「しかも、開催地ウチなのにね」
「ね。」
またざく!って音がする。リーマス早い。
わたしも負けじと、てっぺんのアイスクリームをせっせと口に運ぶ。
「リリーなんか言ってた?いっしょに来るのかと思ってた」
「ん?さあ、妹の面倒みてるのかな?」
「そっか」
「ピーターもまだ来ないね」
「寝てるんじゃない?」
「シリウスはいつも遅いよね」
「デートでしょどうせ」
うん、そうだね、って笑う。
てっきりリーマスも笑ってるかなと思ったら、ざくざくばりばりばり、ってすごい勢いでアイスがなくなっていく音が聞こえてきた。
私も彼に見習って無心で食べようとしたら、とつぜんそれがひょいと開いた私の口の前から消えてしまう。
ぽかーんとしていたら私の右手をつかんだリーマスの口から、大きなざく!っていう音が響く。
「さんきゅ、」
「え、えだって!リーマスまだ自分の分が、」
うわ…ない!カラッポの彼の手を見て、私はあんぐりした。そんな…それたぶん私の三口分!
ぐいっとまた私の目の前に引き戻されたそれを眺めても、私の口はぽかんと開いたままだった。
「あはは、遅いから、つい」
「遅いから、ついー?」
「早くしないとこうして取られちゃうよ」
「そんなことするの、リーマスだけでしょ」
私がつんと口をとがらせても、リーマスは涼しげに笑ってた。
「…ねえねえ、なんでそんなに嬉しそうなの?」
「なんか、たのしいなあって思って」
…私はかなしいんだけど…
大胆にかじられた跡を恨めしげに見ながら、私はその言葉をぐっと呑みこんだ。まぁいいよ。リーマスの言うことなんか気にしない。
ただでさえ気になることをもっと気にしてたら、もっともっとキリがないんだもん。
「ねえねえ、あのさ」
アイスがなくなって、手もち無沙汰になったリーマスはバシャバシャと小川の水を蹴りだした。
私はリーマスがつくったクレーターから溶け出すアイスのしずくを、なんとかスカートの上に零さないように必死に口に運ぶ。
「新学期はじまったらさ、デートとかしない?」
「え?」
思わず首をかしげて、隣のリーマスを見やる。また眩しくて目を細めた。
リーマスはこっちをみて、ざばっと水から足を上げると私のすぐ横にしゃがみこんでくる。
「えっと…デ、デート?」
「うん」
「わ、たしと…?」
「うん、だから…が、僕とつきあってくれないかな…って」
「…え…?」
私は目をがばりと見開いた。うそ…わたし、リーマスに、「こくはく」された???
びっくりして心臓がドキドキして唖然としていたら、いつのまにか、リーマスの顔がぐっと近くなってた。
「ね、ねえ、リーマス…顔、近いよ」
「嫌?」
「ううん、ぜんぜん嫌じゃ」
ないけど、
…って言いかけて、私の口はふわりとバニラの香りでふさがれた。
「リーマス、お友達が来たわよ」
お家の方からリーマスママの声が聞こえてきて、わたしたちはぱっと離れた。いったいなにが起きたのかわけがわからなくて、
私はアイスが目の前から持って行かれたときみたいにただぽかんとしていた。
「じゃあ、考えてて!」
ぱっとその場で立ち上がったリーマスが、そう言い放って駆けだした。
「え、え、」
私は慌てて呼び止めようとするのに、まともな言葉が出てこない。
お家の中へ消えていくリーマスの後ろ姿を見ながら、私は目をぱちくりさせた。
たったいま、リーマスに告白されて、キスされた。
わっと体が熱をもって、手に持ってたアイスクリームもろとも液体化しそうになる。
つぎの瞬間、私は心のなかで、めいいっぱいの悲鳴をあげていた。
(2011.07.21)
三年生設定。ヒロインとリーマスはおたがい大好きで仲良しだといいな。
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