ふたりが寮に戻ったときには、もうすでにいつもの顔ぶれがそろってソファにいた。
ジェームズとシリウスは帰ってきたふたりに気づくなり、意地悪そうににやりと笑う。
リリーはいつものように微笑んでいた。

「お帰り!また雪が降り出したでしょう」
は溶けた雪で濡れた茶色の紙袋を両腕でかかえたまま、うん、と小さく返事をして彼女の隣に腰をおろした。
リーマスも同じようにソファに深く腰掛ける。まだ手がかじかんでいた。

「それにしても」
ジェームズが疲れたように伸びをするとふたりをちらりと見やった。「君たち、ずいぶん遅かったね!」
ああまたこれかと呆れたリーマスが面倒そうに答える。
「ハニーデュークスに行ってたんだ、どうせ君たちはゾンコでふらふらしてたんでしょ」

そのまましばらくからかいに耐えながらしゃべっていると、談話室へ入ってきた寮生がリーマスたちに近づいてきた。


「ルーピン君いる?」
振り返ると同じ学年の男の子だった。
「うん、僕だよ」
「えーとさっき呼んでくれって頼まれたんだ。女の子、ハッフルパフの。」

リーマスはハッとした。「リジーだね」
「そう、それ。いま寮の外にいるよ」
「ありがとう、今行く」
お礼を言って立ち上がると、リーマスはすぐに寮の外へ急いだ。

こんな時間にどうしたんだろ。
星を見るにはまだ早いよね、


パタン、と背中で音がしたと思うと、案の定、すぐ近くで彼女は待っていた。
小走りで駆け寄ると彼女も気づいた。

「こんばんはルーピン君」
「どうしたのこんな時間に?」


彼女は申し訳なさそうに「ごめんなさい突然呼び出して」と謝る。
「じつは、さっき先生のところへ寄っていた途中だったの」

さっき、って、僕がと一緒に帰ってきたときか
リーマスは思い出すと顔が熱くなるのがわかった。

「ああ、あの時ね。で、どうしたの…?」
「そうそう。今日、雪降ってたでしょ。今夜は雲がかかって星が見れなそうだから、先生に聞きに行ったの。」
「そっか、わざわざごめんね、」
「いいえ。で、今日は無しだからそれを言いに。」
リジーはにっこり微笑んだ。リーマスも答えるように微笑み返す。
「ありがとう。助かったよ」

ふたりでしばらくおしゃべりしてから、すぐに「おやすみ」を言って互いに寮へ戻った。



* * *



寮にもどってしばらくすると、誰かがリーマスをよぶ声が聞こえた。
「ルーピン君いる?」
「さっき呼んでくれって頼まれたんだ。女の子、ハッフルパフの。」
リーマスは突然ハッとなって寮からでていった。

ああまただ
また女の子だ

きゅっと紙袋をかかえた腕に力を入れる。
いっしょにまぶたも閉じて悪い考えを閉め出そうとした。違う違う、きっと違う…

でもそう呟くのとは裏腹に、いろんな考えが脳裏をよぎっていた。


あの子はリーマスの好きな子なんだ
だって、今もあわてて外に出てったもの
廊下で見たときだって、リーマスちょっと照れてるみたいだった
それに…昨日のよるもごはんを急いで食べ終わって寮に戻ってた
きっとあの子に会うためよ…

それにリーマス、好きな人がいるって、嬉しそうに言ってた


リーマス…
その子とつき合ってるのかもしれない、


気づいたときには心臓がばくばくと鳴り出して、ぎゅっとつむった目から涙があふれそうになっていた。
もっと早く気づかなきゃいけなかったのに…私、なにやってるんだろ…

何も知らないリリーは嬉しそうに隣から声をかけた。
「ねえ。どうだった?」
少し目を開けたは力無くうつむいたままだった。
何も言えずにいるを、リリーは嬉しそうに微笑む。

とたんにひどく悲しくなって、目にじわりとたまった涙があふれだした。
どうしよう…リリー、私のことを思って誘ってって言ってくれたのに…



に気づいたリリーがおどろいて顔をのぞき込んだ。「あ、あれ、…どうしたの…」

の目からはぽろぽろと涙がこぼれている。
リリーはおろおろしてシリウスとジェームズにも目配せした。

、どうしたの?何か嫌なことあった?」
「やつに変なことされたか?」

は小さく首を振るとリリーが心配そうに背中をなでた。
「…とりあえず、一緒に部屋までいきましょう?」
がうなずくのを待って、リリーはふらふらするの横について部屋への階段を上がっていった。

後に残されたシリウスとジェームズは不思議そうに顔を見合わせていた。



* * *



リーマスが談話室に戻ってくる頃には、もうリリーとはいなくなっていた。
もう寝に行っちゃったのかなと思いながら一応あたりを見渡す。それから再びシリウスとジェームズと向かい側に腰掛けた。 今日1日の思い出が詰まった紙袋を膝にのせて余韻に浸る。

が、どうも前からの視線が痛い。



「お前…になんかしただろ」

リーマスが目を上げるとシリウスがすごい顔をしてじっと見ていた。
隣のジェームズまで眼鏡を光らせている。

「はあ?」
思わず声に出すと2人がものすごい勢いでリーマスの両脇に飛んできた。
びっくりして紙袋の中身がこぼれそうになったのもおかまいなしに、ジェームズとシリウスはリーマスの肩をがっしりとつかむ。

「お前さ、“はあ?”はないだろ!」
「ムーニー、君なにか心当たりはないかな」
「心当たり?」

シリウスがイライラした口調で言う。「じゃなかったら何でが泣いてんだよ!」


はあ?

もう一度心の中で呟く。


「…ちょっと待って、なんの話?」

「さっき君が外にいるあいだがいきなり泣き出した」
「どうせお前が調子乗ってなんかやらかしたんだろ」


「……?」


が?
泣いちゃった?


「…ええっ!?…何で…!?」
「こっちが聞きてぇよ!」
「僕はなにもしてないさ!」

真っ先に疑われたことに腹を立てつつ、心の中では自分がなにかしてしまったのか不安でたまらなかった。

「あいつ、誰かに悪戯されたとか」
「だとしたら僕気づいてるはずだと思うけど…」
「じゃあわかった、お前は今日ホグズミードへ行って思わず満月後だったはずの告白をした」
「…残念ながらしてないよ」
「そうか!あれは嬉し涙だったとしたらつじつまが合う」
「合わないから」

苦笑しながらため息をつく。
楽しかったはずの、なぜか後味悪しく終わってしまった今日が一瞬にして恨めしく思えた。
落ち着かない気分でもうカラフルに見えなくなった紙袋の中身を見つめる。


ソファの3人はその後も考えを巡らせたが、結局これといった答えがでなかった。
リリーとも、その夜はそのまま談話室には降りてこなかった。



   



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