リリーが部屋の扉を閉めると、のベッドにそっと腰掛けた。
彼女の目からはまだ涙がこぼれている。


泣いてるを見るとリリーも悲しくなってきた。
やさしく背中をなでるとは涙を止めようと上着の袖でぬぐう。

「リリー…ご、ごめん…」
「どうして謝るの?」
ずずっと鼻をすすりあげる。

「私…」
「うん」
「…もうリーマス…いいの」

がいうとリリーは驚いて髪をなでていた手を止めた。

「…え?どういうこと?」
はさらに小さくうずくまる。
「なんかね…、リーマス……好きな人いるって」
それを聞いてリリーはほっとした。


そりゃそうよ。
リーマスが好きなのはあなただもの!

言い出したいのをこらえて心の中で笑った。もう世話がやけるんだから。

の手を取って元気づけるように言う。
「諦めるのは早いわの可能性だってあるじゃない」
言った直後には首を振った。
「リーマス…も、う…付き合ってるの」

…はあ?

付き合ってる?

そんなまさか!
相手がシリウスならあり得るけど、
ルーピンがそんなに早く心変わりなんて!


唖然としているとは制服も着替えずにそのまま横になった。
ブランケットを引っ張り上げてまた鼻をすする。


…もしも、そうだったら私が許さないわ。
そうね、発覚した瞬間に一発お見舞いしてやろうじゃないの!



* * *



次の日も、は朝から気分がどんよりしていた。
朝食ではいつものようにジェームズがちょっかいをだそうとしてくるけれど、睨めつけたいのをやっとの事で押さえてトーストに集中した。 いつものように授業を受けて、いつものように大広間へいく。

でも、いつもと違ったのは、晩ご飯を食べ終わったあと図書館へ本を返しに行こうとしたとき。
さん?」
振り返るとどこかで見覚えのある顔。
ああ、何かの授業で一緒だったかもしれない。

「はい、えっと…あなたは、」
「僕はウィル。見ての通り、ハッフルパフ。」
彼は胸のネクタイをちょっと持ち上げると微笑む。
と思ったら、直後に突然真顔に戻った。


「急にで申し訳ないんだけど、」
「は…?」
「ちょっと時間くれる?」
思い切り腕に本を数冊抱えていただったが、なぜだか断れなかった。
うん、なにか大事なことかも知れない。

「い、いいよ」
「じゃあちょっと来て!」
「…え?!」
言うなり彼はの腕をつかんで走りだした。
どこまで行くのか、何度も何度も階段を上っていく。

ちょっと、この人なにする気!

いままで上ったことのない薄暗い階段を駆け上がると、とたんに涼しい風を感じた。外だ。


屋上…かな

見上げるときらきらと星が光ってる。


やっと腕を放した彼を見ると、少し息を切らして申し訳なさそうに苦笑いしていた。
「ご…ごめんね、変なとこつれて来ちゃって」
「ううん!…ここ、屋上なんだね。私、初めて来た」
が言うと安心したように微笑んだ。
と思うとまた真顔に戻る。

「僕、君に言いたいことがあって…」
「私に?」
彼はうなずくと、まだ乱れている呼吸を整えた。
「うん。…僕、さんのことが好きなんだ、よかったら…僕と付き合ってくれないかな、」
「……え…、」


ついさっき屋上まで駆け上がってきて言われる言葉としては衝撃が大きすぎた。
しばらく唖然として何も言えないままでいるうちに、どこからともなく、悲しさがこみ上げてくる。

つい昨日、リーマスのことがわかったばかり。
神様はどれだけ私にリーマスを諦めてほしいんだろう…


が言いよどんでいると、先に向こうが口を開いた。
「…どうやらノーみたいだね。ごめん、突然勝手なことしちゃって、」
また申し訳なさそうに謝る。今度は逆にが申し訳なくなってきた。
「わ、私こそ…ごめんね、」
「ううん、気にしないで」

沈黙がつづき、ふたりはなんとなく空を見上げた。
瞬く星を見て、寒さが身にしみる。

「じゃ、降りよう。」
「…あ、うん。」


ふたりで階段をおりると、城内の明るい光が目に眩しく感じられた。
おりるあいだも無言が続き、は落ち着かなかった。

もとの階へ近づいてきた頃、どこからか足音が聞こえてきた。
それは向かいの廊下から聞こえてくる。
はふ、と目を上げると、一瞬にしてひやりとした。
近づいてきたのは男女の二人組。
それも、片方はよく知った人物だった。


リーマス、


急上昇する心拍数と戦いながらどうしようかと迷った。
いまは顔を合わせたくない

「あ、リジーじゃないか」
はっとして隣のウィルを見ると、彼はじっと問題のカップルを見ている。
まずい…
別の道を通っていこうと促すために慌てて彼の袖を引いた。
「…あ、ねえウィル、」
「おーい、リジー!」

けれど、遅かった。
前方のふたりは声に気がつくと一瞬歩く足を止めた。
青ざめたは本能のまま動き出していた。

「…わ!」
隣のウィルの腕をつかむと別の廊下へ走りだす。とにかく、逃げることしか考えていなかった。
わけがわからないまま、目に付く廊下をつぎつぎに曲がる。
走りながらもの頭には二人いっしょの姿がはなれなかった。



* * *



談話室のソファには、リリー、シリウスとジェームズの三人だけが座っていた。
は図書館に行ったみたいだし、リーマスはいつもの観測に出かけた。

「リリー、は昨日何か言ってたかい?」
ジェームズが聞くと、リリーは突然怒ったように言った。
「もう、それがよ!昨日は少ししか話できなかったんだけど、ルーピン、もう別の女の子と付き合ってるって本当なの?」


「は?別の女の子?誰から聞いたんだそれ」
よ!あの子それで諦めるって言ってるわ」
で、どうなの!ともう一度催促する。

「どうって、俺はわけわかんねえよ」
「僕もさ。そんな噂聞いたことないし」
「あいつ、ずっと前から一筋だぜ」
シリウスはジェームズを見てにやりと笑った。
「そうよね!私、どうも信じられなくて。あなた達がいうなら、きっと何かの間違いだわ」
リリーはほっとして胸を撫で下ろした。

「リーマスのことが僕らにわからないことはないさ!」

ジェームズが愉快そうに笑うと、同時に談話室の扉が開いた。
3人が1度に振り向くと、観測だったリーマスが帰ってきたようだった。

シリウスが声をかける。
「おい、リーマス!お前ちょっとこっち来、「悪いけど…僕先に寝るよ」

遮られたシリウスは不思議そうにリーマスの後ろ姿を見つめる。
「おい、ムーニー?」
呼び止めるまもなく、リーマスは男子寮の階段を上がり姿を消してしまった。
そのすぐ後から、部屋のドアがバタンと閉まるのが聞こえた。



   



inserted by FC2 system