「だめだ。一言もしゃべらねえや」


リーマスの様子を見に行ったシリウスが部屋から戻ってきて言った。
ソファに近づくと手を頭の後ろに組んでジェームズの隣にどっかりと寝そべった。
リリーはそれを見て、ため息をひとつ吐く。


「あでも“約束は無し”ってだけ言ってた」
「はあ?そりゃ無理だ」
杖で遊んでいたジェームズが顔を上げた。
ジェームズの言葉にシリウスが一瞬にやりとする。

「そろそろあいつ、アレだから下り坂だぜ」
「あれって何よ」
「これだからムーニーに早くしろって言ったのに!」
「最初に妥協したのお前だろうが」
質問を流されたリリーが少し不機嫌そうにそっぽをむく。
が、背後で談話室の扉が開く音を聞いてすぐに振り向いた。
入ってきたのはだった。


!おかえりなさい」
ぱっと表情を変えたリリーはすぐにを手招きして呼ぶ。
は心ここにあらずという感じがした。よく見ると、寮から出るときに持っていた本をまだ持ってる。

「あら?、」
リリーが声をかけようとすると彼女はそれを遮った。
「あ、リリー…、私先に部屋いくね」
「え?ちょっ、!」
そのままふらふらと階段をのぼってしまったをリリーは驚いて見つめた。
…大丈夫かしらあの子!



「なにこれ、デジャヴ?」
眼鏡を外してジェームズが目をこする。
「あいつ魂ぬけたあとみたいだな」
シリウスが笑うとリリーが鋭い目線を浴びせる。
「そりゃそうよ!リーマスに彼女がいるって思いこんでるんだもの」
「まあそうなんだけどさ」
シリウスの言葉のあと、3人の周りにしばしの沈黙が訪れた。


「でもさ、」
「うん」
「あの二人、」

「「「似てるよねえ」」」



* * *



あれからリーマスとあまり喋らなくなった。ふたり一緒にいるところを何度も見たし、向こうもなんだか私を避けている気がしていた。
ホグズミードにふたりで行ったのがもう夢みたい…。思い出すと、浮かれてた自分が嫌になる。

いつもみたいに、みんなで談話室に集まってから朝食へ降りていく。トーストにはちみつをぬってフォークで朝食をつつく。
そういえば、最近はあのにやにや笑いをジェームズからくらわなくなった気がする。…きっと、それでよかったんだ。


ちらり、とハッフルパフのテーブルを見ると、ちょうどその子が目に入ってきた。
リーマスとつき合ってる子。
…きれいだな……


思った瞬間なにかがのどの奥で詰まったようになって、涙がわっとあふれそうになった。
朝ご飯をあわてて口の中に放り込む。見えない見えない…もう忘れなきゃ…

もう一度、半ば投げやりにフォークの先を口に入れると、一瞬だけ、前にいたリーマスと目があった。



* * *



満月が今日に迫った。すごく嫌なタイミングで。

こないだと廊下で遭遇したときから気分は最悪。それに加えて今度は満月だ。
今日は朝から体がだるかった。起きたらふ、との顔が頭に浮かんで、そんな自分に腹が立つやら悲しくなるやら。
セーターに腕を通して適当にローブを羽織る。談話室に降りてからみんなで大広間へ移動した。


「今日は無理すんなよ」
「…うん」
大広間の席でシリウスの耳打ちに小さく返事すると、極力さりげなくを見た。

いつものように朝食を口に運んでいるところだった。
…でも、なんだか元気なさそう…、

よく見てると、ちょっとうつむいたまま、あんまり朝ご飯も進んでいないみたいだった。どうしたんだろう。
その瞬間に、と一緒にいた人を思い出してからだが熱くなる。その人のせいなら、僕が許さない。
その直後、


「…」
「…」


合った、目が合った。
じっと見てたのをほとんど忘れかけていた。
いつになくどきっとして、あわてて目を離した後も焦りで落ち着かなかった。

…泣いてた…?
気づけば不安がどっと押し寄せてた。
何でだろう、なんであんな悲しい顔してるんだろう…


その日は落ち着かない心持ちのまま、夕方暴れ柳に行くまで授業を受けた。



   



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