夕食を食べ終わるとリーマスはいつものように早めに大広間を後にした。

あれからはリーマスのことを考えないようにするのに必死で、四六時中自分の中で格闘していた。
それなのに、脳裏にはいつもリーマスの姿があって、どこに行ってるんだろうとか、ふたりでどんなことを喋るんだろうとか、結局はそんなことばかり考えてた。

談話室に戻ってふと窓の外を見る。
雲の散らばる星空の中で、まん丸な月がぼんやりと鈍い光を放っていた。なんだか心がすとんと寂しくなった。
いたたまれなくなってすぐに寮の外へ飛び出す。とぼとぼと歩き出した道はいつも行く図書館へと続いてる。
でもちょっといったところで、やっぱり引き返した方がいいかなと思った。もしかしてまたリーマスたちに会っちゃうかもしれない。


やっぱり戻ろう、もと来た道を戻ろうとしたとき、前から誰かが走ってきた。「…あの!」


顔を上げるとハッフルパフのまさにあの子。どきりとして足が自然に止まった。
彼女は明らかに私に話しかけてる。だって、見る限りこの廊下には私と彼女しかいないんだもの。

少し息を切らした彼女は、の近くに来ると再び口を開いた。
「えっと、ルーピン君の友達よね…?たしか、さん?」

ルーピン君という言葉を聞いてそのとき気がついた。
この子、一人だけだ…


「あ、えっと…うん。そう、」
おどおどしながら答える。
…あれ、でも名前…どうして…?


「あ!ルーピン君からよく聞いてるの」
とまどった私を見て、彼女はすぐに察して微笑んだ。
優しい笑顔の女の子。きっとリーマスはこの笑顔が好きなんだろうな…

彼女は再び何かを思いだしたように真顔に戻ると、少し早口でしゃべりだした。
「そう、ルーピン君。私ルーピン君を探してるんだけど… 。さん、いま寮から出てきたところ?」
「ん、うん」
「ルーピン君いたかしら…?」
「えーっと…」


そういえば大広間を出たっきりリーマスには会ってない。
てっきりふたり一緒にいると思ったのに、どこに行っちゃったんだろう…?


「ううん…寮には戻ってきてないと思う、」
「そう…、」


彼女は困ったように首を傾げた。私もなんだか不安になってきた。

「今日、会う約束だったの…?」
「うん…。でも…いいわ。あの、見かけたら私が探してたって言ってくれるかしら」
「う、うん。いいよ、」
「じゃあお願いします。ありがとうね。」
最後にもう一度ふわりと微笑むと、彼女はすこし手を振りながらもと来た方へと走っていった。



てっきり…てっきり一緒にいると思ってたのに…。
どこ行っちゃったのかな…。



図書館でしばらく過ごしてからまた寮にもどった。
もう消灯の時間になろうとしているのに、なかなか談話室の扉は開かない。
結局夜遅くなってから部屋に入った。ため息一つ、なんだか心の中がもやもやしたまま布団の中に潜る。
ちらりと最後に窓の外を見ると、ガラスの向こうではまだ月が冷たく光っていた。



* * *



また今日もぼろぼろになってしまったローブを羽織り直しながら、とぼとぼと暗い学校の石畳を歩く。
医務室からはまだ明かりが漏れている。扉をたたくとすぐに開いた。
マダムはいつものように手際よく傷を確かめたあと、優しく微笑んで明かりを消した。

冷たくて重くて独特の香りのする医務室の布団にもぐって一息つく。
急に疲れが押し寄せてきて意識はすぐに遠のきはじめる。
完全に意識が薄れてしまう一瞬前、の顔が浮かんで消えた。



   



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