たくさんの人でにぎわう雪道には、すでに文房具や雑貨、歯の根まで溶けてしまいそうな甘いお菓子がつまった紙袋をかかえたふたりの足跡があった。
ふたりが三本の箒の扉を開くと、澄んだ空気にカランと心地よい鈴の音が鳴る。
お互い雪を払うと隅の席に腰をおろした。紙袋がいっぱいなのをみて、ふたりは可笑しそうに笑う。

中は暖炉と人の空気で温かい。
バタービールが残りわずかになったころにはのぼせてしまいそうなほどだった。

「今日は」
「うん?」

暖炉の炎を見つめていたは声のした方へ目を戻した。
ずっと火を見つづけていたせいか、リーマスの鼻から頬にかけて温かい赤色が見える。


「今日は、誘ってくれてありがとう。」
寝起きにいい夢を見たのを思い出したような、最高に優しい笑顔を向けられて、はその場で溶けてしまいそうだった。

「う、ううん。ほんとは…、迷惑かなって心配だったんだけど…」
のおかげで思う存分楽しめたよ。悪いけど、僕そんなにいたずらグッズには興味ないから」


ふたりで声を出して笑う。
こうしてリーマスとふたりで笑っている瞬間が、これまでになく幸せな時間に思えた。
噛みしめるように、はバタービールのジョッキを両手でぎゅっと包む。
ほとんど空になったグラスが、雪に反射した西日が照らして透き通ったオレンジ色になっていた。


幸せそうに微笑むを見てリーマスから言葉が突いて出た。

には好きな子いるの」


言葉にした後、リーマスは自分がどうかしてしまったのではないかと思った。
やっぱり暖炉のせいかな…

見るとは顔を赤くして困った様子だった。


「…ごめん、変なこと聞いちゃって」
慌てて返すと、は小さく首をふる。

ふたりの間にはしばらく沈黙が続いて、客数が減ってもなお店内ににぎやかな音が響く。
リーマスが窓の外で行き交う人々を見ていると、今度はが沈黙を破った。


「リーマスは、」


どきどきしながら口を開く。
リーマスと目が合うと、一度心臓がどきりとした。
はっとして、何でもないことを聞くかのように、精一杯の平然を装って一気に口に出した。


「リーマスは、えっと、好きな子いるの」

内心では全身の血が激しく流れるのを感じながら、できるだけ落ち着いてリーマスの言葉を待った。
彼は一瞬驚いた表情を見せると、直後にいつものふわりとした笑顔を浮かべた。



「いるよ」



「…あ、ふうん、、そ、そっかー、」

突然おそってきた複雑な気持ちの嵐には冷や汗を感じた。
心に重い物がどすーんと落ちて、そのままがっくりと身体が折れてしまいそうだった。

慌てていつもの癖でグラスを口元に持っていくと、もうすでに中は空だった。


そっか…いるんだ
頭の中で何度も呟きながら、極力さりげなくグラスをテーブルに戻す。
それを見てリーマスがおもむろに立ち上がった。

「戻ろっか」
「う、うん。」

急いでマフラーを巻き直して三本の箒を出ると、再び雪道を並んで歩いた。
寒いはずなのに、顔がほてっているせいか空気が涼しく感じる。


リーマスの好きな子…

昨日寮の外で待ち合わせていた子なのかな…


そう考えると、急にほてりが消えていった。



* * *



学校につくころには薄暗くなっていた。
大きな玄関ドアをくぐるとホグワーツの温かい光がおかえりと出迎えてくれる。
他の生徒たちも少しずつ戻ってきているようで、周りにはふたりと同じように紙袋を抱えた集団が行き交っていた。

ふと前を見ると、少し先の廊下でもハッフルパフのネクタイの女の子が歩いている。
その子は私たちに気がつくと、にっこり微笑んで手を振ってきた。

「……?」

隣のリーマスを見上げると、驚いたことにその子へ微笑み返している。

リーマスの友達なんだ、
なるほど、と寮への角を曲がる寸前、突然の足がぴたりと止まった。


もしかしたら…
もしかしたら…


?こっちだよ」
何歩か進んだ先から振り返ったリーマスをの足が勝手に追いかける。
持っていた紙袋が急にずしりと腕に重く感じられた。
ぐるぐると重たい気持ちが波になって体中を押し寄せて、なんだかわからないまま泣いてしまいそうになった。

楽しさがいっぱいだったはずの紙袋を曇った目で見つめながら、
はリーマスの横に並んで寮までの道を歩いた。



   



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